昨夜11時45分に苫小牧港を出航したフェリー「さんふらわ・みと」はあと1時間少々で茨城県の大洗港に着こうとしている。乗船して約18時間が経過しているが、フェリーでの移動を長く感じたことも退屈に思ったこともない。むしろこの時間というものが私にとってはこのうえない休息の時間であり、明日からの活力を充填できる時間なのだ。
この時間をどう過ごしているかと言えば、まずぐっすり眠ること。普段は毎日が徹夜のようなハードスケジュールなので、ここぞとばかりひたすら眠る。「よーし、寝る!」という自己暗示と、船酔い防止の薬を飲んでいる関係で、自分でも信じがたいほどよく眠れる。昨夜は9時間近く熟睡したようだ。あとは、テレビを見たり、読みかけの本を読んだり、ときどき売店にいって飲みものやお菓子類を買ってきたりする。
私がいつも宿泊している船室は、シティーホテルと同様の部屋のつくりと設備なので、比較的ゆったりと過ごせる。前回大洗から苫小牧に向かうときは、低気圧の関係で船がかなり揺れたが、今回はエンジンの振動がわずかにするくらい。実に安定した航行を続けている。なにしろ、ビルで言ったら、8階〜9階建てぐらいの、しかも横長の大建造物がゆっくりゆっくり太平洋の海原を走っているのだから、少々の波ではびくともしないわよね。
で、先ほどNHKのBS放送を観ていたら、なんとも感動的なドキュメンタリーをやっていた。それは、アフリカ(マダガスカル島)のエリマキキツネザルの生態を紹介した内容であった。彼らは、両親と子供の家族単位で群れをつくり森の中で生活している。母系家族を形成していることから、リーダーは母ザルで、移動のときは母ザルが先頭をきって木から木へジャンプし、続いて子供たち、最後に全員の無事を確認した父親ザルが飛ぶ。
ところがある日、一匹の子猿が怪我をして、動けない状態になった。それに気づいた父猿は、その子猿の怪我の箇所を一生懸命に舐めはじめた。約1時間もその場に留まり、傷口を舐め続けた。そのかいあって、子猿が動けるようになり、父子は先に行った家族の群れに追いつく。
すると、どうだろう! 今度は兄弟の子猿たちが、その傷ついた猿の傷口を代わる代わる舐めにきたのだ。中には、化膿した部分の肉を食いちぎって、化膿が広がらないようにしてやったりしている子猿までいる。なんという知恵だろう。私は、短いドキュメンタリーであったが胸をキュッと締め付けられるような思いになった。今の私たちの人間社会、家族の関係は、かなり病んできている。この猿たちの家族愛が、私たちが忘れかけている大切なもの教えてくれている気がした。
さて、あと30分程度で大洗に入港する。今夜からまた、東京での生活が始まる。