外出の際に、マンション1階ロビーのカウンターに「ひまわり」が飾ってあることに気づいた。「えっ!? もう、ひまわり? この頃、アートフラワーでも本物そっくりのものがあるしねぇ……」そんなことを心につぶやきながら思わず近づいてみると、生花だった。「ひまわり」というと、どうしても真夏の熱い陽射しをイメージしてしまう。ここのところ、妙に涼しいせいか、ひまわりがちょっとだけ、まだそぐわないように見えた。
それでもひまわりの黄色が脳裏に印象的に残っていて、帰宅してから、グーグルで「ひまわり」を検索してみた。なんと130万件も該当サイトがあるじゃないの! 「ひまわり」と名のつく会社やお店、団体、診療所、動物病院、幼稚園……あるわ、あるわ! そう言えば私が通っていた幼稚園も「ひまわり幼稚園」だった。こうしたデータを見ると、やはり「ひまわり」は私たち日本人にとびきり馴染みの深い花なのね。ひまわりを漢字で書くと「向日葵」、いつも太陽に向かっているというイメージと、華やかな黄色であることが明るさと前向きな姿勢や希望などを感じさせるのだろう。それに庶民性もあるし……ひまわりが皆に愛され、 好んでこの花の名前が使われる理由がよく解る。
私もひまわりに対しては明るいイメージを持っているが、ギリシャ神話においては哀しいお話なのよね。ストーリーを簡単に書き記しておこう。
ある池にクリュティエとレウコティエという名のニンフの姉妹が住んでおりました。二人には水の精としての掟がありました。それは水の上で遊んで良いのは、東の空が白むまでの夜の間だけと定められていたのです。ところがある日、二人は遊びに夢中になり、時間が経つのを忘れ、空に駆け昇っていく太陽神アポロンの姿を見てしまったのです。ああ、その姿の何と神々しく美しかったこと! 二人は我を忘れて、うっとりと眺め続けました。すると、その視線を感じたのでしょう。アポロンも姉妹を見つけて、ニッコリと微笑みました。
その瞬間、姉のクリュティエは恋に落ちました。でも、妹のレウコティエも少なからずアポロンに好意を抱いています。クリュティエは先手を打って、何とかアポロンに近づこうと計りました。でも、やがて悲しいことに、アポロンが自分ではなく、すでに妹を愛していることを知ってしまったのです。
打ちひしがれたクリュティエは、それでもあきらめきれずに野原に立ち、空を仰いで「どうか私を見てください」とアポロンに訴え続けました。クリュティエは9日9夜、その場に立ち続けたために、体は痩せ細り、足からは根が生えて、とうとう1本のひまわりの花になってしまいました。可哀想なクリュティエはひまわりに姿を変えたまま、今でも朝から日暮れまで、太陽神アポロンの姿を追い続けているのです。
こんな切ない恋物語が「ひまわり」にはあるのよね。でも、ひまわりの花言葉は「光輝」、「あなたは素晴らしい」、日本人の私としては、ひまわりは明るく元気な花として、いつまでも認識していたいな。