深夜、何となく夜風に吹かれたくなって、ベランダに出た。東の空はうっすらと雲がかかり、雲間に下弦の月が、驚くほど鮮やかに見える。こんなに明るい月は久しぶりだ。台風の影響か、少し暑く湿った空気が体を包む。風は思ったよりない。目の前の公園から、虫の音がにぎやかなほど聞こえてくる。秋なんだ!とあらためて思った。するとふと「ちいさい秋 ちいさい秋 ちいさい秋 みつけた〜」と口をついて出た。
私はサトウハチローの「ちいさい秋見つけた」がどうしようもないほど好きで、3番までしっかり暗記している。そして、いつ唄っても胸がキューッとなる。
《ちいさい秋見つけた》
サトウハチロー 作詞
中田喜直 作曲
誰かさんが 誰かさんが 誰かさんが みつけた
ちいさい秋 ちいさい秋 ちいさい秋 みつけた
めかくし鬼さん 手のなる方へ
すましたお耳に かすかにしみた
よんでる口笛 もずの声
ちいさい秋 ちいさい秋 ちいさい秋 みつけた
誰かさんが 誰かさんが 誰かさんが みつけた
ちいさい秋 ちいさい秋 ちいさい秋 みつけた
お部屋は北向き くもりのガラス
うつろな目の色 とかしたミルク
わずかなすきから 秋の風
ちいさい秋 ちいさい秋 ちいさい秋 みつけた
誰かさんが 誰かさんが 誰かさんが みつけた
ちいさい秋 ちいさい秋 ちいさい秋みつけた
むかしの むかしの 風見の鳥の
ぼやけたとさかに はぜの葉ひとつ
はぜの葉あかくて 入日色
ちいさい秋 ちいさい秋 ちいさい秋 みつけた
1番の「すましたお耳に かすかにしみた よんでる口笛 もずの声」、ああ、なんていいの! 2番の「お部屋は北向き くもりのガラス うつろな目の色 とかしたミルク わずかなすきから 秋の風」、もうここへくるともう、胸が震え出す。3番の「むかしの むかしの 風見の鳥の ぼやけたとさかに はぜの葉ひとつ はぜの葉あかくて 入日色」、幼い頃の思い出が次から次へと走馬燈のように浮かんでくる。近所の子たちみんなで集まって、鬼ごっこや隠れん坊をしたこと。「はないちもんめ」なんていうのもあったけ……。色鮮やかなモミジやイチョウの葉を集めて大好きな本の間にはさんだり、ドングリの実をそっとポケットにしのばせたり……ね。
それにしても「うつろな目の色 とかしたミルク」、「ぼやけたとさかに はぜの葉ひとつ」なんて、どうしてこんなに素敵な、懐かしさにあふれる表現ができるのかしら。この歌に出会ってから、屋根の上で回る風見鶏がむしょうに好きになってしまったのよね。
日記を書き終わったら、もう一度、月を眺めながら唄ってみようかな。あなたも「ちいさい秋…」一緒に唄いませんか?